「食べ方のクセ」調べてみませんか?
暑かった夏が終わり、気が付けば秋深し、と季節になりました。
果物は美味しいし、新米も美味しいし、お鍋やおでんも……食欲の秋です。
外来でも「何を食べても美味しくて困りますねー」、とお話される方も多いです。
また、年末が近づいてきて仕事が忙しくなり「最近、食事時間がバラバラで食べられる時にドカ食いしてしまうんです」とか、「3時ごろ小腹がすいて、お菓子たべちゃうんです」なんて話も聞かれるようになりました。
そして、気温が徐々に低下しており、運動量が減ったりして体重が減らなくなってきてる患者さんが増えてきました。
現在、「肥満症」という病名で使用できる(適応がある)薬というのは非常に限られています。肥満指数(BMI)が条件を満たさないといけなかったり、投薬期間が限られていたりと、まだまだ肥満症の薬物療法は、世の中の需要を満たしてるとは言い難い状況です。肥満症手術(metabolic surgery/bariatric surgery)はさらに限定的になります。
(この辺りは別ページで特集していますので、よろしければご覧ください。)
さて、そうなるとやはり誰でもできて、そして治療の土台ともなる「食事療法」「運動療法」を見直してみる必要があります。
今回はそのうち、「食事療法」について、もう少し掘り下げてお話しようと思います。
①「食べ方のくせ」を知ろう
②当院で行った食行動質問票の研究のご紹介
①「食べ方のくせ」を知ろう
「食べ方のくせ」を知るために、日本肥満学会では「食行動質問票」を推奨しています。
これを、すぐにできるようにしたサイトがあります。Fujifilm社のホームページで簡単に調べることができます。
当院でも、肥満症外来で利用しています。特に、最初に診察の時に、2回目の外来までの宿題としてやってきてもらいます。
55項目の質問票で、「体質や体重に関する認識」「食動機」「代理摂食」「空腹感・満腹感覚」「食べ方」「食事内容」「食生活の規則性」の7項目についていろいろな質問の仕方で問われており、それを集計していきます。
お時間がある時にぜひ1回、ご自身の食べ方のクセを調べてみてください。5分ちょっとで終わります。
自分では「他の人と同じ」と思っていたことが実はズレていた、なんてことよくあります。
また、意識して食生活を変える前と変えた後でもう1度やってその変化を調べてみるのも利用方法の1つです。
医局在籍時代に大変お世話になった先輩で、アメリカに留学されたH先生のお話を聞いたら、日本を離れる前と帰国後でこの質問票をやってみたら、食生活がだいぶ変わっていた、と言っておられました。
私自身も実際でやってみました。「食生活の規則性」が基準よりも点数不良でした…(下図)。
思い返してみたら、帰宅時間がまちまちなので、夕食の時間が日によってバラバラでした。
このように、気が付かなかった自分の食行動のクセに気が付くことができます。
②当院で行った食行動質問票のご紹介
2023年4月に発売され、2型糖尿病の治療薬である商品名:マンジャロ(一般名:チルゼパチド)という週1回の注射薬があります。
血糖コントロールを改善するだけでなく、体重にも影響を与えることが分かっている薬です。
*注意:現時点では肥満症での治療薬ではありません。2型糖尿病の治療薬です。減量目的での処方は行っていません*
治験(薬が発売される前に患者さんを限定して行う試験)段階でも、「満腹感を上昇させ、空腹感を抑制すること」が論文で報告されていました。
このことを踏まえ、当院通院中の患者さんに書面で同意を頂いた上で、2023年4月~12月の期間に、マンジャロの投与後の血糖値の変化、体重の変化、そして食行動の変化を調べさせて頂きました。
まず血糖値と体重ですが、平均で6か月間で、HbA1c:7.2%→5.8%、体重:81.8 kg (BMI 29.9)→69.7 kg (BMI 27.1)と大幅に変化することが分かりました。
そして、肝心の食行動です。
0M、3M、6Mは、マンジャロ投与後3,6,9カ月の変化です。ご覧のように、経時的に食行動が改善されていることが分かります。
全世界で発売されているマンジャロですが、日本人での食行動の変化を測定した研究はこれまでなく、ヨーロッパの雑誌で論文発表させて頂きました(共同研究者:札幌医科大学 古橋教授、佐藤准教授、田中臨床准教授らの研究グループ)。
このように、食行動質問票は簡単にできるにも関わらず、海外で複数の論文にも用いられるぐらい大切な検査であり、治療法(正確には、認知行動療法といいます)です。この結果を用いて、実際の外来で「夜の食べ過ぎる傾向がありますね」、とか「ご自身の体重と食事の受けとめかたにちょっと癖がありますね」というようにフィードバックすることができます。また、どんどん血糖値と体重のコントロールが改善してきたとき、昔の質問票と比較して、○○を頑張りましたね、と診ることもできます。
自分で自分の食べ方を知るよい機会になると思います。
繰り返しになりますが、ぜひとも一度「食行動質問票」試してみてくださいね。
名取とおる内科・糖尿病クリニック
院長 鈴木 亨