美容目的で自費購入するマンジャロは本当に安全でしょうか? ~糖尿病専門医が考える適正使用と海外で報告された重篤な副作用~

~日本から世界に報告された重篤な副作用から考える「適正使用」の大切さ~
近年、「マンジャロ(一般名:チルゼパチド)」という薬が大きな注目を集めています。
テレビやインターネット、SNSなどでは「痩せる注射」と紹介されることも多く、「自費で購入してダイエットに使いたい」「美容目的で使ってみたい」という相談を受ける機会も増えてきました。
確かにマンジャロは体重減少効果が期待できる優れた薬です。しかし、それと同時にれっきとした医療用医薬品でもあります。
「よく痩せる」という情報だけが一人歩きし、副作用や適応について十分理解されないまま使用されることを、私たちは危惧しています。
今回は、2025年に海外で報告された症例を紹介しながら、「なぜ美容目的での安易な使用をおすすめしないのか」をお話ししたいと思います。
日本で報告された重篤な副作用
2025年日本で起こったマンジャロの重篤な副作用報告が、海外のThe Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism という雑誌掲載されました(原著論文)。
美容目的でマンジャロを使用した若い女性が「ケトアシドーシス」という重篤な状態になった、というものです。
患者さんは23歳の女性で、糖尿病はなく、肥満でもありませんでした。
美容目的でマンジャロを使用したところ、
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強い食欲低下
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食事がほとんど摂れない状態
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吐き気
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嘔吐
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下痢
が続き、救急搬送されました。
検査では、血糖値は極端には高くないにもかかわらず、血液中のケトン体が著しく増加し、「ケトアシドーシス」と診断されました。
幸い適切な治療によって回復しましたが、「糖尿病でない人でも重篤な副作用が起こる可能性がある」ことを示した非常に重要な報告です。
もちろん、この副作用は極めてまれであり、多くの方に起こるものではありません。
しかし、「糖尿病の薬だから糖尿病の人だけが注意すればよい」というわけではないことを、この症例は教えてくれます。
ケトアシドーシスとは?
通常、私たちの体は食事から摂取した糖をエネルギー源として利用しています。
しかし、
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食事がほとんど摂れない
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嘔吐や下痢が続く
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強い脱水になる
といった状態になると、体は脂肪を大量に分解してエネルギーを作ろうとします。
その際に「ケトン体」という物質が過剰に作られ、血液が酸性に傾いてしまう状態がケトアシドーシスです。
重症化すると点滴やインスリン治療が必要となり、場合によっては命に関わることもあります。
マンジャロそのものが直接ケトアシドーシスを起こすというよりも、強い食欲低下や消化器症状によって食事や水分が十分に摂れなくなり、それが引き金になると考えられています。
「痩せる薬」ではなく「治療薬」です
マンジャロは、本来2型糖尿病の治療薬として開発されました。
血糖値を改善するだけではなく、
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体重減少
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心血管疾患リスクの改善
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将来的な合併症予防
など、多くの効果が期待できる非常に優れた薬です。
当院でも、多くの糖尿病患者さんに使用し、その効果を実感しています。
しかし、どれほど優れた薬でも、「適応を守って使う」ことが大前提です。
医療には、「効果」と「副作用」が必ず存在します。
そのバランスを患者さん一人ひとりについて慎重に判断することこそが、医師の役割だと考えています。
当院では美容目的での処方は行っておりません
近年はインターネットや自由診療で、マンジャロを比較的容易に入手できるケースもみられます。
しかし当院では、美容やダイエットのみを目的としたマンジャロの自費処方は行っておりません。
これは薬を否定しているからではありません。
むしろ、マンジャロが非常に優れた薬だからこそ、適切な患者さんに、安全に使用すべきだと考えているためです。
「簡単に痩せる」というイメージだけで使用すると、本来避けられた副作用に遭遇してしまう可能性があります。
医療用医薬品は、医学的な必要性があり、利益がリスクを上回ると判断される場合に使用されるべきものです。
肥満症の治療は専門的な診療が必要です
一方で、医学的に治療が必要な肥満症の患者さんも数多くいらっしゃいます。
肥満症は単なる体重の問題ではなく、
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糖尿病
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高血圧
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脂質異常症
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睡眠時無呼吸症候群
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脂肪肝
など、さまざまな病気と深く関係しています。
このような場合には、薬物療法が有効なこともあります。
当院では、肥満症の治療が適応となる患者さんについては、連携病院と協力しながら、安全性を十分確認したうえで治療を行っています。
「太っているから薬を出す」のではなく、「医学的に肥満症と診断され、薬物療法の利益が期待できるか」を総合的に判断しています。
マンジャロが使えない=治療法がない、ではありません
「マンジャロが使えないなら、もう痩せる方法はないのでしょうか?」
このような質問を受けることがあります。
答えは**「いいえ」です。**
肥満や体重管理の方法は決して一つではありません。
患者さんによっては、
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食事療法の見直し
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運動療法
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睡眠や生活リズムの改善
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他の薬剤の選択
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必要に応じた専門施設への紹介
の方が、安全で効果的なことも少なくありません。
治療とは、「一番話題の薬を使うこと」ではなく、「その患者さんに最も適した方法を選ぶこと」です。
当院が大切にしていること
糖尿病専門医・肥満症専門医として、「薬を処方すること」ではなく「患者さんが長く健康でいられること」を第一に考えています。
マンジャロは、適切な患者さんにとっては生活を大きく変える可能性を持つ素晴らしい薬です。
しかし、適応を誤れば、副作用のリスクが利益を上回ることもあります。
だからこそ、「誰でも使える痩せ薬」としてではなく、「医学的根拠に基づいて適切に使用する治療薬」として向き合うことが大切です。
体重や血糖値でお悩みの方は、自己判断で薬を購入する前に、ぜひ一度ご相談ください。
患者さん一人ひとりに合った、安全で継続できる治療を一緒に考えていきたいと思います。
名取とおる内科・糖尿病クリニック
院長 鈴木 亨

