高血圧の新時代へ:2025年版ガイドラインで変わったこと、そして私たちができること

どんどん日が短くなり、冬が近づいてまいりました。
今回は、高血圧症に関して、このたび改定された最新のガイドラインをご紹介しながら、患者さん・ご家族として知っておいてほしいポイントをわかりやすく解説いたします。
■ なぜ今回ガイドラインが改定されたのか?
日本高血圧学会は、2025年8月に「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH 2025)」を発表しました。
その目的として、
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これまでの「知識を記す」だけのガイドラインから、患者さん自身・医療者が「行動につなげられる」内容に変えようという方針が打ち出されています。
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日本人の血圧管理状況が、先進国の中でも十分とは言えず、実際の血圧コントロール率の改善が急務となっていた背景があります。
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そのため、家庭での血圧測定、日常生活での改善行動、迅速な対応などに重点が置かれています。
つまり、血圧を「測る」「見える化する」「改善につなげる」という流れが、より重視されるようになりました。
■ 診断基準と目標値の整理
まず、「高血圧と診断される値」と、「降圧(血圧を下げる)目標値」は別の概念です。今回は特に「目標値」が大きく見直されています。
診断基準(変更なし)
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診察室で測った血圧が 140/90 mmHg以上 の場合、高血圧と診断されることが従来通りです。
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家庭で測った血圧が 135/85 mmHg以上 の場合も高血圧とされる目安となります。
この「診断される基準」は大きく変わっていません。
目標血圧(大きな改訂ポイント)
ガイドライン2025の最大の変化は、降圧目標が「年齢・合併症を問わず原則統一された」点です。
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診察室血圧 :130/80 mmHg未満 を基本目標とする。
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家庭血圧(朝・晩の平均) :125/75 mmHg未満 を目安とする。
ただし、実際には「めまい・ふらつき・腎機能低下・高齢で虚弱(フレイル)傾向」などがある場合には、個別に目標値を緩やかに調整することが明記されています。
■ 家庭血圧測定の重要性
新ガイドラインでは、家庭での血圧測定の価値がこれまで以上に高まっています。
その理由として、
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診療室では緊張や「白衣高血圧」の影響を受けやすく、日常の“ありのまま”の血圧が反映されにくいから。
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とくに「起床直後・朝の時間帯」の血圧上昇が、脳卒中や心筋梗塞のリスクと関連があることが明らかになってきたからです。
家庭血圧の測り方(患者さん向け目安)
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朝:起床後、排尿・朝食前・薬を飲む前、座位で1〜2分安静後に2回測定。
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夜:就寝前、同様に座位で1〜2回測定。
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測定機器:上腕式血圧計(家庭用)を使用し、定期的に精度の確認を。
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測定値は記録して、平均値を把握することをおすすめします。
家庭での測定結果をもとに、医師・看護師・薬剤師・栄養士などと一緒に「あなたの血圧の傾向」を確認していくことが、より良い管理につながります。
■ 生活習慣改善がさらに重要に
ガイドライン2025では、「薬だけで血圧を下げる」のではなく、「生活の中で血圧を整えていく」ことが明確に打ち出されました。
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減塩(塩分摂取量の制限)だけでなく、カリウムを多く含む食品を意識して摂ること。例えば野菜・果物・海藻・豆類など。
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尿中ナトリウム/カリウム比(Na/K 比)など、新しい指標の活用が示唆されており、“塩を減らすだけ”ではなく“塩とカリウムのバランス”も見るという考え方です。
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運動:有酸素運動(ウォーキング・速歩など)だけでなく、筋力トレーニングも血圧コントロールに有効とされ、週2〜3回の筋トレも推奨されています。
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体重管理:BMI 25未満を目安に、体重減少が血圧低下につながる傾向があるため、標準体重・体脂肪の改善を目指します。
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アルコール・喫煙・睡眠・ストレス・便秘・入浴時の急変なども“血圧”に影響を及ぼす生活要因として、改めて留意が必要とされています。
――つまり、「毎日の食事」「毎日の運動」「毎日の測定」が、血圧管理にとって、これまで以上に“治療の主役”になったと言えます。
■ 薬物治療のポイント(患者さんが押さえておきたいこと)
以下はあくまで概要です。具体的な薬の種類や開始時期・併用などは、医師の判断と相談してください。
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ガイドラインでは、降圧薬の第一選択群(G1降圧薬)として、長時間作用型ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬(CCB)、ARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)、ACE阻害薬、サイアザイド系利尿薬、β遮断薬が挙げられています。
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今回の改訂で「β遮断薬」が再び主要選択肢のひとつに位置づけられた点も注目されています。
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また、治療開始後「目標血圧に到達しない場合には早めに2剤併用・3剤以上併用を考慮する」流れがより明確になっています。
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その一方で、「全ての患者さんを一律に同じ目標・同じ薬で」というわけではなく、腎機能・薬の副作用・高齢者・その他合併症を持つ方については個別に調整することが大切です。
薬を開始する・継続する際には、
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毎日同じ時間に服薬する
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測定した家庭血圧や体調変化(めまい・立ちくらみ・むくみ・咳など)を記録・相談する
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減塩・運動・体重管理を薬と併せて行うという“トータルな”取り組みが重要です
■ どんな人が特に注意したいか?
以下のような方は、より慎重かつ早めの対応が望まれます。
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過去に脳卒中、心筋梗塞、心不全、腎臓病(特に蛋白尿あり)などの既往がある方。
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高齢(特に75歳以上)で、日常生活動作(ADL)・手段的ADLが低下している方。
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妊娠中・妊娠を希望している女性。
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がん治療中・治療後で、血圧上昇や薬相互作用のリスクがある方。
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家庭血圧・朝の血圧が高めの傾向にある方。
これらに該当する場合には、ガイドラインで示される「標準目標」ではなく、医師と相談のうえ、“安全に達成可能な目標値”を設定することが推奨されています。
■ クリニックとして皆さんにお願いしたい3つのこと
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家庭での血圧測定を習慣にしましょう。
朝・晩測定し、可能であれば記録アプリや紙に残していくことで、ご自身の血圧の“クセ”が見えてきます。 -
生活習慣改善は“続ける”ことが鍵です。
1日だけ減塩して終わり、運動を1回しただけでは効果は一過的。継続が大切です。 -
疑問・不安があれば遠慮なくご相談ください。
めまい・ふらつき・体調変化・家庭血圧の上昇など、気になることがあれば、薬の調整/生活指導/測定機器の確認など、一緒に考えていきましょう。
■ まとめ
今回のガイドライン改定で強く伝えられているのは、
「高血圧=薬を飲むだけ」ではなく、
「血圧を自分で測る・見える化する」「生活を整える」「必要に応じて薬を適切に使う」という“3本柱”です。
そして、目標として「診察室で130/80 mmHg未満」「家庭で125/75 mmHg未満」という数値が目安になりました。もちろん、すべての方がこの数値を無理なく達成できるわけではありません。体調・年齢・合併症などを考慮して、無理のない範囲で「少しでも下げていく」ことが大切です。
血圧は「自分では変えられないもの」ではなく、日々の行動で変えていけるものです。
当クリニックでは、測定指導・栄養指導・運動指導・薬物治療調整を通じて、皆さまの血圧管理をサポートいたします。お気軽にご相談ください。
名取とおる内科・糖尿病クリニック
院長 鈴木 亨

