肥満症・脂質異常症
目次
肥満症
そもそも肥満症とは?肥満とは何が違うの?
肥満症とは「肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか、その合併が予測される場合で、医学的に減量を必要とする病態をいい、疾患単位として取り扱う」と定義されています。
なんだか文章だけだと、分かりにくいですよね。
そもそも、肥満と肥満症って、"症"が付いただけで、何か違うの?よく聞くメタボリックシンドロームとは何が違うの?となります。
上図のように、「肥満症」というのは、BMI(=体重(kg)÷身長(m)2)が25以上で、かつ1.~11.(=肥満関連疾患といいます)のどれか1つでも合併して始めて、"病気"となるということです。
すなわち、お相撲さんはたいていBMI 25を超えているからみんな病気だ!ではないことが分かります。
脂肪もありますが、筋肉が相当量あり体重が重くなっています。
そのため、よくプールで泳ぐと沈むと言われていたりします(もちろん肥満関連疾患の何かが合併すれば、病気になります)。
治療(体重ノート)
肥満症の治療は、減量が基本となります。
ただし、BMI 以下にすることや、標準体重といわれるBMI 22を目標とすることではなく、内臓脂肪を減らしながら、合併症の発症や進行をとめることにあります。
また、減量によって、先ほどの肥満関連疾患の改善も期待されます。
では、実際の治療の流れと、具体的な治療方法について説明します。
減量目標の設定
BMI以上35未満の「肥満症」とBMI以上の「高度肥満症」では減量目標が異なります。
例えば、身長170 cm、体重90 kg で糖尿病を合併している方の場合を考えてみます。
BMIは90(kg)÷1.7(m)÷1.7(m)=31.1となりますので、肥満症の診断になります。
目標は、BMI 25ですと体重は 1.7×1.7×22 = 63.6 kgになりますが、そうすると今の体重から 26.4kg(!)も減量しなくてはいけなくなります。ちょっとめまいがしてきましたね。
しかし正しくは、現在の体重の3%以上 90×0.03= 2.7 kg 、まずは約3kg減量すればよいことになります。
目標期間は3~6ヶ月。1ヶ月で0.5~1.0 kgずつ減量していけば、半年後には3kg減量することになります。
これなら頑張れそうではありませんか?
それを、3~6ヶ月ずつ、ゆっくり私達のクリニックが伴走しますので、頑張ってみませんか?
なお、高度肥満症はより早急に大幅に減量することが望まれます。
場合によっては、胃を縮小するための減量手術(metabolic surgery/bariatric surgery)が必要になります。
減量治療
毎日の体重記録
まずは、毎日体重計に乗ることから始めましょう。
院長も毎朝起きたら直ぐに体重計に乗るようにしています。
当クリニックでも体重と血圧の記録ノートを窓口でお渡ししております。
自分の体重を認識して、仮に増量してきたら、何が原因かちょっと思い出す、振り返りができるようになります。
例えば、週末になると必ず体重が増えている方ですと、週末の食生活を変化させることが大きなポイントになります。
無料のグラフ化体重(pdfファイルがありますのでダウンロード出来るようにして頂ければと存じます)をダウンロード出来るようにしておきましたので、是非ご利用ください。
なお、1日1回でも問題ありません。毎日記録をつけることが大切です。
治療(食事療法・運動療法)
食事療法
肥満症では、25 kcal/kg×標準体重/日以下、高度肥満症では20~25kcal/kg×標準体重以下のカロリー摂取を目標とします。
先ほどの例では、25 × 63.6 = 1590。約1600kcal/日を目標とすればよくなります。
尚その内訳である栄養素は、50~60%が糖質、15~20%がタンパク質、20~25%が脂質が適していると考えられています(低糖質ダイエットや地中海式ダイエットに関しては、機会を改めてご紹介します)。
このほかに、フォーミュラー食というものがあります。
一般的に、低カロリーダイエット(LCD: Low Calorie Diet)といわれるものです。
1食200キロカロリーいかにして、1日1食か2食を置き換えて、総カロリー量を減らすものです。
当クリニックでは、サニーヘルス社と10年近い提携医療機関であり院長自身使用経験が豊富です。
一般的に通販などで販売されているものより、"医療機関専用"として割引がきいた状態でご紹介できます。
とりあえず、どんなものかまずは試してみたい、という方は無料でサンプルをお渡しいたしますので、診察時にお声がけください。
なお、実際に購入される場合は、それぞれご家庭から申し込んで頂き、自宅に直接届くことになります(当クリニックを介して購入するわけではありませんので、当クリニックの収益にはなりません。ご紹介させて頂くだけです)。
味は定番の7つと、年数回季節限定味がでます。院長も試食してみております。
意外と患者さんごとに好みが分かれます。
そして限定味はかなり美味しいので、まとめて数箱買われていらっしゃる方もいるみたいです。
運動療法
まず、急に運動を始める前に、心臓や関節(特に膝関節・股関節)に問題がないかを確認しましょう。
心臓病がある方は主治医の先生に確認をとって下さい、また関節に痛みがある方は、やり方を間違えるとむしろ余計痛みがひどくなることもあります。
その場合は、負担の少ない運動から開始することになります。
運動の頻度は、できることであればほぼ毎日(週5日以上)。
運動量が十分であれば、週5回未満でも大丈夫です。
運動の種類は、有酸素運動(エアロビクスなど)、レジスタンス運動(筋力トレーニング)どちらも有効です。
運動時間は、1日合計30~60分(週150~300分)。
1回の持続時間が10分以上でも未満でも差がないことから、1回10分の中等度以上の運動(やや早足の歩行・自転車通勤・大きな駅の乗り換え)を積み重ねるのも有効です。
職場でエレベーターを利用せず、階段も利用し、1日数回行うだけでも効果は出てきます。
なお、体脂肪1kgは約7000キロカロリーの消費が必要です。
そのため、脂肪1kgを燃焼するために必要な運動時間は
運動種目 | 1時間あたりのエネルギー | 必要時間 |
---|---|---|
散歩 | 210キロカロリー | 34時間 |
ジョギング | 450キロカロリー | 16時間 |
ランニング | 580キロカロリー | 12時間 |
サイクリング | 520キロカロリー | 14時間 |
水泳 | 540キロカロリー | 13時間 |
と、一気に減量するのがかなり難しいことが分かります。日々の積み重ねが大切です。
治療(薬物療法)
中枢性食欲抑制薬
サノレックス(商品名:マジンドール)という薬剤になります。摂食抑制、消化吸収抑制、消費エネルギー促進(糖の利用や熱産生促進)作用をもちます。
また肥満時にみられる代謝変動を改善する作用をあらわし、これらの作用により肥満症の改善効果が期待できます。
なお、本剤は覚醒作用などにより睡眠障害を引き起こす場合があるため、通常は夕刻の投与は避けることが望ましいとされております。
ただし、適応は厳しく、食事療法及び運動療法の効果が不十分な高度肥満症に対して、投与期間はできる限り短期間とし3ヶ月を限度とする、となっております。
GLP-1受容体作動薬(注射(週1回、1日1~2回)・内服薬(1日1回))
リラグルチド注(商品名:ビクトーザ:1日1回)、デュラグルチド注(商品名:トルリシティー:週1回)、セマグルチド注(商品名:オゼンピック:週1回)、トリゼパチド注(商品名:マンジャロ:週1回)経口セマグルチド(商品名:リベルサス:1日1回)、エキセナチドER注(商品名:ビデュリオン:週1回)、エキセナチド注(商品名:バイエッタ:1日2回)、リキシセナチド注(商品名:リキスミア:1日1回)などの多くの薬剤があります。
現時点では、2型糖尿病の患者さんのみに使用することができます。
本薬剤は、全身の多くの臓器に作用します。特に食欲に関する臓器に注目しましょう。
このようにして、脳の食欲中枢抑制・胃の運動低下・血糖低下に寄与し、減量効果を発現します。
ただし、注意して頂きたいのは、もっと食べたいと思う、辛いけど我慢しなきゃ・・・という気持ちを抑えてくれるサポート薬と思って頂いた方がよいかと思います。
この薬を使用したから、いくら食べても大丈夫、というわけではありません。
頑張って体重を減らそう、がまん、がまん・・・という気持ちを軽くしてくれます。
現時点では、2型糖尿病が合併していることが前提ですが、近い将来、肥満症単独で投与できるようになる可能性があります。
なお、最近自費診療でGLP-1ダイエットなるものが一部で流行しております。
"痩せホルモンで有名な!"、などと謳っておりますが、専門医はだれもそんな呼び方はしておりません。
そして相当高額な値段設定になっております。
日本医師会・日本糖尿病学会が、注意喚起も出しております。
かなり強い語気になってしまいますが、それくらい真っ当な医療ではないと、私は考えております。
皆さんも、くれぐれも手を出さないようにお気をつけください。
脂質異常症(高脂血症)
どんな病気?
脂質異常症とは、血液中の脂肪分が多すぎる、あるいは少なすぎる状態をいいます。
これまで、高脂血症と呼ばれていた病態も脂質異常症の一部に含まれます(高脂血症という用語は病態を正しく表していないとして、2007年に日本動脈硬化学会が診断名を「脂質異常症」に改訂しました)。
血液中の中性脂肪やLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が基準値よりも高値であったり、逆にHDLコレステロール(善玉コレステロール)が低値であっても、動脈硬化を引き起こすリスクになります。
このため、脂質異常症は、心筋梗塞や脳梗塞など、動脈硬化によって引き起こされる、いわゆる動脈硬化性疾患とよばれる血管系の病気の引きがねになると考えられています。
検査
空腹時採血にて検査を行います。
脂質異常症の診断基準(空腹時)
原因は、生活習慣の乱れから(脂質の取り過ぎや運動不足など)が原因となることが多く、中年以降に発症することが多いです。
その他に、糖尿病や肥満症や内分泌疾患(クッシング病など)、別の病気によって、もしくは内服している薬(ステロイドなど)から引き起こされる物もあります。
また、それ以外にも、遺伝性のものもあります。
例えば、代表的なものを1つ紹介します。
「家族性高コレステロール血症」という病気は、生まれながらにしてLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が高いため、若いうちから心筋梗塞を発症したりします。
ホモ型とヘテロ型という2つがありますが、片方の遺伝子異常(ヘテロ型)のものは、200~500人に1人はいるとされており、日本国内に30万人以上はいるのではないかとされています。
家族歴がとても重要で、2親等(親の代、祖父祖母の代、子供の代、孫の代)で若い年齢(男性55歳未満、女性65歳未満)で狭心症・心筋梗塞が多いというときは、1度受診されることをお勧めいたします。
*当クリニックは日本動脈硬化学会家族性高コレステロール血症紹介可能な施設に認定されております。
この病気は、採血で診断はできますが、その原因までしっかりと調べていくことがとても大切になります。
それによって、治療目標をどれくらい厳格にしなくてはいけないか、薬も何を選択するか、など変わってくる場合もあります。
また、日本動脈硬化学会では、動脈硬化性疾患発症予測アプリ「これりすくん」というものを公開しています。
ぜひとも1度使用してみて下さい。
治療
まずは、患者さんの今置かれている状態、すなわち一次予防(まだ動脈硬化性疾患を発症していない)なのか、二次予防(すでに発症していて次を起こさないようにする)かによって目標が変わってきます。
*低リスク~高リスク、自分がどこに分類されているかは、上記の「これりすくん」で、簡単に計算することができます。
まず基本となるのが食事療法・運動療法です。
同じ日本人でも、稗・粟・麦を食べて、移動はもっぱら徒歩であった昔と異なり、食生活は欧米化し、肉類や脂っぽい物がより好まれるようになっています。
また、クリームがたっぷりのお菓子も食べることがあるかと思います。
そして移動は電車や車と多くなっています。
江戸時代のような生活に戻ることは困難ですから、なるべく脂が多いものを控え、青魚などの良質な脂の摂取を増やし、さらに運動することにより改善が期待できます。
それでも改善が不十分な時に内服薬を開始します。
LDLコレステロールを中心に改善する薬、中性脂肪を中心に改善する薬などたくさんの種類、そして薬の特性があります。
当然薬ですから、副作用が出現する時もあります。
外来では数多くある薬剤の中から、1人1人にあったものを選択していきます。