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「GLP-1ダイエット」は安全なの??

[2023.11.12]

 最近よく「メディカルダイエット」「GLP-1ダイエット」という言葉を目にしたり、聞いたことはありませんでしょうか?
 googleなどでこの言葉を検索すると「科学的根拠のある」「健康的な」「食事制限・運動制限なしに楽に痩せられる」「リバウンド心配なし」などのうたい文句で大々的に広告されています。

 さて、この言葉を鵜呑みにしても本当に大丈夫でしょうか?
 
 糖尿病専門医かつ肥満症専門医である院長としては、この状況は非常に危険だと考えています。そもそもGLP-1ダイエットとは、2型糖尿病の治療薬」であるGLP-1受容体作動薬を用いたものです。しかし現実には、多くの場合糖尿病の有無に関係無く痩身目的で利用されています。美容、皮膚科の一部のクリニックを中心に、もしくはオンラインクリニックなどで行われています。“医師監修”とは書かれているものの、肥満症では保険適応はありません。自費診療になりますので、開始前に詳細な説明はあったとしても、最後は同意書を書いてその治療法を選択した皆さん側の責任になります。仮に目的のような結果にならなくてもです。

 では、そもそも「GLP-1」とは何か、そして「GLP-1ダイエットの危険性」について解説していきたいと思います。


①GLP-1ってなに?
②GLP-1ダイエットの危険性
③衝撃的な最近のアメリカからの報告


①GLP-1ってなに?
 GLP-1は皆さんの体(小腸)からもともと分泌されいるホルモンです。

 

 











 すい臓に対しては、インスリンの分泌を増加させ、またグルカゴン(血糖を上昇させるホルモン)の分泌を減少させます。
 に対しては、運動能が低下することによって胃もたれのような、何かまだお腹に入っている感じになり、間食をすることなどが減ります。また、排泄が遅延することにより、食物を吸収する腸に行くまでの時間が遅くなるため、血糖値の上がり方が緩やかになります。
 に対しては、食欲中枢に作用し食欲を抑制するように働き、食べる量自体が減少します。さらに満腹感も持続することにより、間食することなどが減ります。(薬剤によっては軽い吐き気が伴います)

 このように、すい臓、胃、脳だけを見ても、糖尿病・肥満症の治療にとても良い方向に働きます。また、今回のブログでは詳細を書きませんが、免疫や筋肉、心臓など全身の臓器に働きかけることが分かっています。

②GLP-1ダイエットの危険性
 まず、GLP-1ダイエットの話をする前に、現在日本で認可されているGLP-1薬(正式名称:GLP-1受容体作動薬)を示したいと思います(2023年4月より、GIP/GLP-1受容体作動薬も発売されたので同時に掲載します)。
 

  最近特にインターネット上で見かけるのは、サクセンダ、リベルサス、マンジャロあたりかと思います。また、サクセンダに至っては日本国内認可が下りていません。
 
 なぜ、同じリラグルチドなのに、ビクトーザとサクセンダで国内認可の違いが有るのでしょうか?
 なぜ、リベルサスもマンジャロも国内認可があるのに自費診療で投薬されてしまうのでしょうか?
 上記の3つの薬剤は、全て体重減少効果を有しています。
 では、何が問題なのか?
 
 理由は日本人で2型糖尿病なしに肥満症だけで注射/内服すること、リラグルチド 3.0mgの安全性が確認されていないからです。もちろん将来的に肥満症で投薬可能(保険診療となる)可能性はありますが、現時点では不明なのです。

 GLP-1ダイエットの危険性に具体的には以下のことが挙げられます。
 薬剤の副作用として、嘔気・嘔吐、急性膵炎、腸閉塞、低血糖のリスクなどが挙げられます。また、人によっては非常に症状が強く出てしまい、日常生活に支障を来たすこともあります。また、GLP-1受容体作動薬製剤には注射/内服に注意(もしくは禁止)を要する既往がある病気もあります。そのため、直ぐに対応することが出来るよう定期的な通院と体の状態の評価が大切になるのです。

 日本糖尿病学会からも「GLP-1 受容体作動薬および GIP/GLP-1 受容体作動薬の適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解」として声明が出ています。また、厚生労働省・消費者庁からも注意喚起出ています。
 また、世界中で本製剤の需要が高まっているため、日本でも供給不足になっています。当クリニックでも、本当にこの薬を投薬しなくてはいけない患者さんに薬が行き渡らない状態になっております。先日開かれて日本医師会の会見でも『糖尿病治療薬の一部が"痩せ薬"として不適切使用されている実態について、報告した。同副会長は、まず、これまでの糖尿病治療について、日医が日本糖尿病学会、日本糖尿病協会、日本歯科医師会と協力し、「日本糖尿病対策推進会議」を設立するとともに、『糖尿病治療のエッセンス』の作成等により、啓発を進めてきたことを紹介。その上で、「糖尿病治療薬の一部が、個人輸入や美容クリニックにおいて、"痩せ薬"として不適切に使用されている実態がある」と述べ、強い懸念を表明した。』と、大きな問題になっています。

③衝撃的な最近のアメリカからの報告
 先日、JAMAという臨床医学で非常に有名な雑誌から衝撃的な論文が発表されました。
 『Risk of Gastrointestinal Adverse Events Associated With Glucagon-Like Peptide-1 Receptor Agonists for Weight Loss(体重減少を目的としたGLP-1受容体作動薬による消化管有害事象のリスク)』(JAMA 2023 Oct 5:e2319574. doi: 10.1001/jama.2023.19574. ) というものです。

 大まかに要約しますと、2006年~2020年にアメリカの保険外来データから1,600万人をランダムに選び出し、糖尿病のない肥満の人にGLP-1受容体作動薬を使用した約6,000人を解析した研究です。
 その結果、GLP-1受容体作動薬でない肥満薬に対して、GLP-1受容体作動薬を使用した人では
 膵炎 約9.1倍、腸閉塞 約4.2倍、胆道疾患 約1.5倍 
 [膵炎  HR 9.09 (1.25-66.00)、腸閉塞 HR 4.22 (1.02-17.40)、胆道疾患 HR 1.50 (0.89-2.53)]
という驚くべき結果でした。もちろん、これは日本人だけを対象にしたものではありませんので、そのまま直ぐに当てはめていいわけではないのですが、やはり痩身目的のみでGLP-1受容体作動薬を安易に使用してよいか、立ち止まって考えるべきものではないかと思います。

 肥満症は薬だけしか治療方法がないのではありません。
 治療に困っている方がいらっしゃいましたら、お気軽にご相談下さい。

 

名取とおる内科・糖尿病クリニック
院長 鈴木 亨

 

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